更訂 H28.12.24



  善業によることについて



『もし衆生があって、牛をコクするが如き間、信心絶えずして十念を修行するものは、その福を量ることができず、その福を量れるものもいない。』



一、仏陀隨念 仏陀の徳を思念する。(三宝への帰依) 

二、法隨念  法の徳を思念する。

三、僧隨念  僧の徳を思念じる。

四、戒隨念  戒めの徳を思念する。

五、施隨念(捨隨念) 布施の徳を思念する。

六、天隨念  天を想起して、自分にもある徳を思念する。(天随念について)


七、休息隨念(止息・寂止隨念) 寂静の法である、煩悩と苦を滅する涅槃の徳を想起、思念する。

八、安般隨念 出入息に念を置く。

九、身(至)隨念  身体は浄らかではない。と思念して、この身体の実相を覚知し、世間の貪憂を調伏して住する念。

十、死隨念  自らにもいずれ必ず死は訪れる、その死を想起し、放逸にならないように思念する。
                                                (並順は、漢訳より)





  十念

 このようにわたくしは聞きました。

 一時尊き師ブッダはヴェーサーリーミクチのほとりに大比丘衆五百人とともにおられた。

 その時世尊は時至って衣を着け鉢を持ち、阿難をひきいてヴェーサーリーに入りて乞食をされていた。

 その時ヴェーサーリーの城内に毘羅先という名の大長者が居り、大資産家であるが慳貪にして他への施しの心なく、前世の善行によりて報いられた宿福(前世の善行によりて報いられた福徳)を食して、新しき善業をなさなかった。

 その時、彼の長者は諸の采女をひきい、後宮にいて倡伎楽を作し、自ら楽しんでいた。

その時世尊は、彼の巷に住詣し、知りて阿難に問うて言われた、
「今、倡伎楽の作すのを聞くが、これは何れの家であるのか」


アーナンダは、世尊(仏陀)に答えた、
「それは毘羅先長者の家であります」

世尊は、アーナンダに告げて言われた、
「この長者は後七日にして命終し、啼哭地獄の中に生ずる。

 然る所以は、これは常法として、もし断善根の人の命終の時には、皆啼哭地獄の中に生ずるのである。

 この長者の、宿福はすでに尽き、更にあたらしき善業をも造らなかったがゆえである」と。

アーナンダは、世尊にこのように言った、
「どのような因縁があれば、この長者が後七日で命終しないのでしょうか」

世尊は、アーナンダに告げて言われた、
「命終しないとする因縁を得ることはない。
 昔種えた所の行いが今日すでに尽き、これを免れることはないのである」

アーナンダは、世尊にこのように言った、
「それでは、彼の長者を啼哭地獄の中に生じないようにするということができるのでしょうか」

世尊は、アーナンダに告げて言われた、
「彼の長者が地獄に入らないようにすることはできる」

アーナンダは、世尊にこのように言った、
「何の因縁が、長者を地獄に入らないようにさせるのでしょうか」

世尊は、アーナンダに告げて言われた、
「この長者が髪鬚を剃除し、三法衣を着け、出家学道をすれば、この業を免れることを得るのである」

アーナンダは、世尊にこのように言った、
「今わたくしはこの長者を、出家学道させましょう」と。

 その時アーナンダは世尊にあいさつをして、彼の長者の家に到り、門外に在って立った。

 この時長者は、遥かにアーナンダの来るのを見て、すぐに出て奉迎し、請じて坐らせた。

そして、アーナンダは、長者にこのように告げた、
「今わたくしが、一切智人である、如来から聞いたところでは、如来は汝の身が後七日にして、見壊れて命終し、啼哭地獄の中に生じると言われた」と。

長者はそれを聞きおわり、身の毛が逆立ち、恐れを懐き、アーナンダにこのように言った、
「どうすれば、後七日で命終しないのでしょうか」

アーナンダは、このように言った、
「この因縁の、後七日の命終を免れることはできないのです」

長者はまたこのように言った、
「では、どのようにすれば、私が命終した後に啼哭地獄に生じないのでしょうか」

アーナンダはこのように告げた。
「世尊はこのように教示された、『この長者が鬚髪を剃除し、三法衣を着け、出家学道をすれば、地獄の中に入ることがない』と。
 汝、今よく出家学道をすれば、彼岸に到ることを得る」と。

長者はこのように言った、
「しかし、私はまだ出家いたしません」と。

 このようにしてアーナンダは毘羅先長者の家を去った。

その時、長者はこのような念を作した、
”七日と言うと、いまだなお遠い。私は、今五欲を自ら娯楽しよう。そして、後に、出家学道しよう”と。

それからまた明くる日、アーナンダは長者の家に至り長者に告げて言った、
「一日がすでに過ぎました。残り六日あります。出家するべきである」と。

長者はこのように言った、
「アーナンダさん、私はまだ出家いたしませんが、後に従いましょう」と。

 彼の長者はなお出家せず。

そして、アーナンダは二日、三日四日乃至六日、長者の家に到り長者に告げた、
「時に出家するべきである。後に悔いてももう遅いのです。
 もし出家学道しなければ、今日命終して、啼哭地獄の中に生じるでしょう」と。

長者はこのように言った、
「アーナンダ尊者よ、私はまだ出家いたしませんが、後に従いましょう」

アーナンダは告げて言った、
「長者よ、今日何の神足を以てあなたのところに到り、まさに(命終に至ってしまう)先に吾を遣わすと言うのですか。

 今からともにいきましょう」と。

そして、アーナンダはこの長者をひきいて、世尊のみもとに至り、頭面に足を禮し、世尊に言った、
「今この長者は出家学道することを望んでいます。

 願わくば如来、まさにために鬚髪を剃除し、出家学道することを得せ使め下さい」

世尊はアーナンダに告げて言った、
「汝が今自らこの長者を得度させなさい」

 アーナンダは世尊の教勅を受け、すぐに長者のために鬚髪を剃除し教えて、三法衣を着けさせて、正法を学ばせた。


その時、アーナンダは彼の比丘に教えて言った、
「汝はまさにこれを念じて修行しなさい。
 仏陀を念じ、法を念じ、比丘僧を念じ、戒を念じ、施を念じ、天を念じ、休息を念じ、安般を念じ、身を念じ、死を念じなさい。
 まさにこのように法を修行しなさい。

 比丘がこの十念を行ずるを大果報を獲て甘露〔不死の(霊)水〕の法味を得るというのです」


 その時、毘羅先は、是の如きの法を修行しおわって、その日命終して、四天王中に生じた。

 その時アーナンダは、彼の身を闍維〔火葬〕し、還って世尊のみもとにいたり、頭面に足を禮し、一面にあって立った。

その時アーナンダは、世尊にこのように言った、
「比丘の毘羅先は今すでに命終して、何処に生じたのでしょうか」

世尊は告げて言われた、
「今、この比丘は命終して四天王中に生じた」と。

アーナンダは世尊に言った、
「そこで命終してからは、何処に生じるのでしょうか」と。

世尊は告げて言われた、
「そこで命終して、まさに三十三天に生じる、そこから夜摩天・兜術天・化自在天・他化自在天に生じ、そこより命終してまた還来して、すなわち四天王中に到る。

 このようにアーナンダよ、毘羅先比丘は七反天人の中に周旋し、最後に人身を得て出家学道し、ついに苦を滅尽する。
 それは如来に於いて信心有るがゆえである。

 この閻浮提地は南北二萬一千由旬、東西七千由旬なり。

 もし人ありて閻浮里地の人を供養せば、その福は多いとなすであろうか」

アーナンダは世尊に答えて言った、
「はなはだ多いのです。はなはだ多いのです、世尊。」

世尊は、アーナンダに告げて言われた、
「もし衆生があって、牛をコクするが如き間、信心絶えずして十念を修行するものは、その福を量ることができず、その福を量れるものもいない

 そのように、アーナンダよ、まさに(賢聖の四聖諦を得る、諸々の結縛の除去)を求めて十念を修行しなさい。

 アーナンダよ、まさにこれを学びなさい」

 その時、アーナンダは、世尊の所説を聞いて歓喜奉行した。


増壱 七日品