更訂 H28.12.10



  真理の教えを後の人々に伝えていくことについて




『アーナンダよ、(世俗の)その(家長権交代の)善い行動様式は、世を厭離することへは導かず、愛欲を離れることへは導かず、消滅へは導かず、静かな安らぎへは導かず、超自然的な知へは導かず、全きさとりへは導かず、ニルヴァーナへは導かない。
 せいぜいのところ、ブラフマ世界への再生に導くだけである。

 ところがアーナンダよ、
 この、現在私によりて定め置かれた善い行動様式は、完全に世を厭離することに導き、愛欲を離れることに導き、消滅に導き、静かな安らぎに導き、超自然的な知に導き、全きさとりに導き、ニルヴァーナに導く。

 これが”八つの支分からなる聖道〔八聖道〕”である。

それ故に、私はあなたがたに告げる、

「私が定め置いた、この善い行動様式〔仏陀の教え・真理・理法〕を、あなた方は更に次々に後へ(伝え)続けさせなさい。
 私の(弟子の)あなた方が最後の人になってはならない」


 あなたが仏陀の弟子であるならば、なおさらに、仏陀の教えの通り、
「私が定め置いた、この善い行動様式〔仏陀の教え・真理・理法〕を、あなた方は更に次々に後へ(伝え)続けさせなさい」と。


 大乗仏教徒でありても、仏陀の弟子であるならば、大乗経典の矛盾あり大きな間違いが多い経典を唱えている場合ではなく、また、護摩行をして火神に仕えている場合でもない。

 矛盾あり大きな間違いが多い教えは、人々を正しい八聖道へと導くことができない。

 仏教徒は、汝の師であるゴータマ仏陀のこの教えを清浄心にて受け入れて、速やかに実行するのが善い。
(このHPを、そのまま伝えても善いです。)





  善い伝統の相続

 わたくしこのように聞きました。
 ある時、尊き師はミティラーにあるマカーデーヴァ・マンゴー林に滞在されていた。
 ときに、尊師はある地所において微笑みをお見せになった。

すると、アーナンダさんはこう考えた、
”尊師が微笑みをお見せになったことの、原因はなにであり、事情はなにであろうか。
 理由なくして、全き人(如来)たちが微笑みをお見せになることはない”

そこでアーナンダさんは片方の肩を衣で覆って、尊師に向って合掌礼拝してから、尊師にこう申し上げた、
「尊師が微笑みを見せられたことの、原因は何であり、事情は何でしょうか。
 理由なくして、全き人たちが微笑みをお見せになることはありません」

「アーナンダよ、はるかな昔、まさしくこのミティラーにおいて、マカーデーヴァという王がいた。
 正法にかない、住民に対しても、(扱いは)法に従って行っていた。
 また彼は(太陰月の)半月の第十四日、第十五日、第八日に布薩(懺悔・精進日)を過ごした。

ときにアーナンダよ、多くの年が、多くの百年が、多くの千年が過ぎ去ったとき、マカーデーヴァ王は理髪師に告げて言った、
「親しい理髪師よ、私の頭に白髪が何本か生えているのをもし君が見つけたらなら、そのとき私に告げてほしい」

「かしこまりました、陛下」と、アーナンダよ、理髪師はマカーデーヴァ王に答えた。

 そして、アーナンダよ、多くの年が、多くの百年が、多くの千年が過ぎ去ったとき、理髪師はマカーデーヴァ王の頭に白髪が何本か生えているのを見つけた。

見つけて、マカーデーヴァ王にこう告げた、
「陛下に神の伝令使たちが現われました。頭に白髪が生えているのを見つけました」

「それでは、親しい理髪師よ。それらの白髪をうまく毛抜きで抜いて、私の掌の上においてくれ」

「かしこまりました、陛下」と、アーナンダよ、理髪師はマカーデーヴァ王に答えて、それらの白髪をうまく毛抜きで抜いて、マカーデーヴァ王の掌の上においた。

すると、アーナンダよ、マカーデーヴァ王は理髪師に最良の村を贈り、長子たる王子を呼び寄せて、こう告げた、
「わが息子よ、王子よ、私に神の伝令使たちが現われた。頭に白髪が生えているのが見られた。
 私は人間の享楽を楽しんだ。(今や)神々の享楽を得ようとすべきときである。

 さあ、おまえ、わが息子よ、この王位を受けよ。

 私は髪・ひげを剃り落とし、黄褐色の衣をまとって、家より出て家なき生活へと出家する。

 さあ、わが息子、王子よ、おまえも頭に白髪が生えているのを見たならならば、そのときは理髪師に最良の村を贈り、長子たる王子によく王位について教えこんでから、髪・ひげを剃り落とし、黄褐色の衣をまとって、家より出て家なき生活へと出家するがよい。

 そして、私が定め置いた、この(家長権交代の)善い行動様式を、さらに次々に後へ続けさせよ。
 (それを定め置いた)私の(子の)おまえが、最後の人になってはならぬ。

 わが息子、王子よ。
 もし一対の人(父子)がいて、(彼らの間で)このような善い行動様式が断絶するならば、そのうちの一人が最後の人になるであろう。

 それ故に、わが息子、王子よ、おまえに私はこう告げる。
 〈私が定め置いた、この(家長権交代の)善い行動様式を、さらに次々に後へ続けさせよ。私の(子の)おまえが最後になってはならぬ〉」

 さて、アーナンダよ、マカーデーヴァ王は理髪師に最良の村を贈り、長子たる王子によく王位について教えこんでから、まさしくマカーデーヴァ・マンゴー林において髪・ひげを剃り落とし、黄褐色の衣をまとって、家より出て家なき生活へと出家した。

 彼は一つの方角をいつくしみ(慈)をともなう心で満たして暮らした。
 そのように第二の(方角)を、そのように第三の(方角)を、そのように第四の(方角)を、(慈しみをともなう心で満たして暮らした)。
 かくして上に向っても、下に向っても、水平方向にも、一切処においても、すべて(の生類)が自己(と等しい)というありかたをもって、(有情)世界すべてを、広大なる、崇高なる、無量の、敵意(怨み)のない、害意(悪意)のない、慈しみの心で満たして暮らした。

 一つの方角をあわれみ(悲)をともなう心で満たして暮らした。
 そのように第二の方角を、そのように第三の方角を、そのように第四の方角を、あわれみをともなう心で満たして暮らした。
 かくして上に向っても、下に向っても、水平方向にも、一切処においても、すべての生類が自己と等しいというありかたをもって、有情世界すべてを広大なる、無量の、敵意(怨み)のない、害意(悪意)のない、あわれみの心で満たして暮らした)。

 一つの方角を喜び(喜)をともなう心で満たして暮らした。
 そのように第二の方角を、そのように第三の方角を、そのように第四の方角を、あわれみをともなう心で満たして暮らした。
 かくして上に向っても、下に向っても、水平方向にも、一切処においても、すべての生類が自己と等しいというありかたをもって、有情世界すべてを、広大なる、無量の、敵意(怨み)のない、害意(悪意)のない、喜びの心で満たして暮らした。

 一つの方角を執らわれを捨てた平等平静(捨)をともなう心で満たして暮らした。
 そのように第二の方角を、そのように第三の方角を、そのように第四の(方角)を、(平等平静をともなう心で満たして暮らした)。
 かくして上に向っても、下に向っても、水平方向にも、一切処においても、すべての生類が自己と等しいというありかたをもって、有情世界すべてを、広大なる、無量の、敵意(怨み)のない、害意(悪意)のない、平等平静の心で満たして暮らした。


 アーナンダよ、マカーデーヴァ王は八万四千年(無数、多くの年月)の間、王子として子供の遊戯に遊び戯れた。

 八万四千年(多くの年月)の間、副王として働き、八万四千年(多くの年月)の間、王として統治した。

 八万四千年の(多くの年月)間、まさしくこのマカーデーヴァ・マンゴー林において家より出て家なき生活へと出家した彼は清らかな修行(梵行)をなした。

 四つのブラフマ世界の居住の境地(四梵住。慈・悲・喜・捨)を修して、身体が破れた後、死後に、ブラフマ世界に赴いた」



 さて、アーナンダよ、多くの年が、多くの百年が、多くの千年が過ぎ去ったとき、マカーデーヴァ王の息子は理髪師に告げていった。

「親しい理髪師よ、私の頭に白髪が何本か生えているのをもし君が見つけたらなら、そのとき私に告げてほしい」

「かしこまりました、陛下」と、アーナンダよ、理髪師はマカーデーヴァ王の息子に答えた。

 そして、アーナンダよ、多くの年が、多くの百年が、多くの千年が過ぎ去ったとき、理髪師はマカーデーヴァ王の息子の頭に白髪が何本か生えているのを見つけた。

見つけて、マカーデーヴァ王の息子にこう告げた、
「陛下に神の伝令使たちが現われました。頭に白髪が生えているのを見つけました」

「それでは、親しい理髪師よ。それらの白髪をうまく毛抜きで抜いて、私の掌の上においてくれ」

「かしこまりました、陛下」と、アーナンダよ、理髪師はマカーデーヴァ王の息子に答えて、それらの白髪をうまく毛抜きで抜いて、マカーデーヴァ王の息子の掌の上においた。

 すると、アーナンダよ、マカーデーヴァ王の息子は理髪師に最良の村を贈り、長子たる王子を呼び寄せて、こう告げた、
「わが息子よ、王子よ、私に神の伝令使たちが現われた。頭に白髪が生えているのが見られた。
 私は人間の享楽を楽しんだ。(今や)神々の享楽を得ようとすべきときである。

 さあ、おまえ、わが息子よ、この王位を受けよ。
 私は髪・ひげを剃り落とし、黄褐色の衣をまとって、家より出て家なき生活へと出家する。
 さあ、わが息子、王子よ、おまえも頭に白髪が生えているのを見たならならば、そのときは理髪師に最良の村を贈り、長子たる王子によく王位について教えこんでから、髪・ひげを剃り落とし、黄褐色の衣をまとって、家より出て家なき生活へと出家するがよい。

 私が定め置いた、この(家長権交代の)善い行動様式を、さらに次々に後へ続けさせよ。
 (それを定め置いた)私の(子の)おまえが、最後の人になってはならぬ。
 わが息子、王子よ。もし一対の人(父子)がいて、(彼らの間で)このような善い行動様式が断絶するならば、そのうちの一人が最後の人になるであろう。

 それ故に、わが息子、王子よ、おまえに私はこう告げる。
〈私が定め置いた、この(家長権交代の)善い行動様式を、さらに次々に後へ続けさせよ。私の(子の)おまえが最後になってはならぬ〉」

 さて、アーナンダよ、マカーデーヴァ王の息子は理髪師に最良の村を贈り、長子たる王子によく王位について教えこんでから、まさしくマカーデーヴァ・マンゴー林において髪・ひげを剃り落とし、黄褐色の衣をまとって、家より出て家なき生活へと出家した。

 彼は一つの方角をいつくしみ(慈)をともなう心で満たして暮らした。
 そのように第二の(方角)を、そのように第三の(方角)を、そのように第四の(方角)を、(慈しみをともなう心で満たして暮らした)。
 かくして上に向っても、下に向っても、水平方向にも、一切処においても、すべて(の生類)が自己(と等しい)というありかたをもって、(有情)世界すべてを、広大なる、崇高なる、無量の、敵意(怨み)のない、害意(悪意)のない、慈しみの心で満たして暮らした。

 一つの方角をあわれみ(悲)をともなう心で満たして暮らした。
 そのように第二の方角を、そのように第三の方角を、そのように第四の方角を、あわれみをともなう心で満たして暮らした。
 かくして上に向っても、下に向っても、水平方向にも、一切処においても、すべての生類が自己と等しいというありかたをもって、有情世界すべてを広大なる、無量の、敵意(怨み)のない、害意(悪意)のない、あわれみの心で満たして暮らした。

 一つの方角を喜び(喜)をともなう心で満たして暮らした。
 そのように第二の方角を、そのように第三の方角を、そのように第四の方角を、あわれみをともなう心で満たして暮らした。
 かくして上に向っても、下に向っても、水平方向にも、一切処においても、すべての生類が自己と等しいというありかたをもって、有情世界すべてを、広大なる、無量の、敵意(怨み)のない、害意(悪意)のない、喜びの心で満たして暮らした。

 一つの方角を執らわれを捨てた平等平静(捨)をともなう心で(満たして暮らした。
 そのように第二の方角を、そのように第三の方角を、そのように第四の(方角)を、(平等平静をともなう心で満たして暮らした)。
 かくして上に向っても、下に向っても、水平方向にも、一切処においても、すべての生類が自己と等しいというありかたをもって、有情世界すべてを、広大なる、無量の、敵意(怨み)のない、害意(悪意)のない、平等平静の心で満たして暮らした。

 彼は八万四千年の間、王子として子供の遊戯に遊び戯れた。
 八万四千年の間、副王として働き、八万四千年の間、王として統治した。
 八万四千年の間、まさしくこのマカーデーヴァ・マンゴー林において家より出て家なき生活へと出家した彼らは、清らかな修行をなした。
 彼らは四つのブラフマ世界の居住の境地を修して、身体が破れた後、死後に、ブラフマ世界に赴いた」



「ニミはそれらの王達の最後の者であり、正法にかない、法王であり、(つねに)法に立つ偉大な王であり、バラモン・資産家たちに対しても、町の住民に対しても、地方の住民に対しても、(扱いは)法に従って行なった。
 彼は(太陰月の)半月の第十四日、第十五日、第八日に布薩をすごした。

 それははるか昔のことであるが、アーナンダよ、三十三天の神々がスダンマー会堂(善法堂)に円座して集まっていると、次のような会話が生じた、
「それは実にヴィデーハ国人にとって(得難い)利益であり、実にヴィデーハ国人にとってすばらしい利益です。
 彼らにとってニミが王たることは(その者は)正法にかない、法王であり、(つねに)法に立つ偉大なる王であり、バラモン・資産家達に対しても、町の住民に対しても、地方の住民に対しても、(扱いは)法に従って行っています。彼は半月の第十四日、第十五日、第八日に布薩をすごしています」

「わが友たちよ、あなたがたはニミ王に会いたくないですか」

「友よ、私達はニミ王に会ってみたいです」

 そのとき、布薩たるその日、第十五日に、ニミ王は頭を洗い清め、布薩の斎戒を守り、すばらしい宮殿の最上階に登り、坐っていた。
 するとアーナンダよ、神々の王サッカは、あたかも力ある男が曲げたひじを伸ばし、伸ばしたひじを曲げるように、そのように(たちまち)三十三天の神々の世界から姿を消して、ニミ王の面前に姿を現した。

そしてアーナンダよ、神々の王サッカは、ニミ王にこう語った。
「あなたにとって大王よ、これは(得難い)利益であり、あなたにとって大王よ、これはすばらしい利益です。
 三十三天の神々はスダンマー会堂で、大王よ、あなたを(次のように)称賛する態度で、円座しています。
 〈それはじつにヴィデーハ国人にとって(得難い)利益であり、実にヴィデーハ国人にとってすばらしい利益です。
 彼らにとってニミが王たることは(その者は)正法にかない、法王であり、(つねに)法に立つ、偉大なる王であり、バラモン・資産家達に対しても、町の住民に対しても、地方の住民に対しても、(扱いは)法に従って行っています。
 彼は半月の第十四日、第十五日、第八日に布薩をすごしています〉と。
 大王よ、三十三天の神々があなたに会いたがっています。そのようなあなたのために、私は多くの純血種の(馬を)千つないだ一台の車を遣わすことにしましょう。
 大王よ、動揺されることなく、どうか神の車にお乗りください」

 アーナンダよ、ニミ王は沈黙をもって(招待に)同意した。
 するとアーナンダよ、神々の王サッカは、ニミ王が同意したのを知って、あたかも力ある男が曲げたひじを伸ばし、伸ばしたひじを曲げるように、そのように(たちまち)ニミ王の面前から姿を消して、

三十三天の神々の王サッカは、馭者マータリに告げた、
「さあ、君、親しいマータリよ。多くの純血種の(馬を)千つないだ一台の車を用意して、ニミ王のもとに行き、こう言うのだ。
『大王よ、これはあなた様のために、神々の王サッカが遣わした、多くの純血種の(馬を)千つないだ車です。
 大王よ、動揺されることなく、どうか神の車にお乗りください』と」

「かしこまりました、御意のままに」

 アーナンダよ、馭者マータリは神々の王サッカに答えて、多くの純血種の(馬を)千つないだ一台の車を用意して、ニミ王のもとに行き、こう言った、
「大王よ、これはあなた様のために、神々の王サッカが遣わした、多くの純血種の(馬を)千つないだ車です。
 大王よ、動揺されることなく、神の車にお乗りなさい。
 大王よ、どちらの(道)をとおってあなたをお連れしましょうか。
 悪い行為をもつ者達が悪い諸々の業の熟した結果を経験するところの(道)を通って(地獄界を経る道を見る方)にしますか。
 それとも善い行為ををもつ者たちが、善い諸々の業の熟した結果を経験するところの(道)を通って(諸々の天界を経る道を見る方)にしますか」

「マータリよ、私を両方の(道)を通って案内してくれ」

 アーナンダよ、馭者マータリはニミ王をスダンマー会堂に到着させた。

アーナンダよ、神々の王サッカは、ニミ王が遠くからやって来るのを見た。見て、ニミ王にこう言った、
「来たれよ、大王よ。
 よくいらっしゃられた、大王よ。
 三十三天の神々はスダンマー会堂で、大王よ、あなたを(次のように)称賛する第度で円座しています。

〈それは実にヴィデーハ国人にとって(得難い)利益であり、実にヴィデーハ国人にとってすばらしい利益です。
 彼らにとってニミが王たることは(その者は)正法にかない、法王であり、(つねに)法に立つ、偉大なる王であり、バラモン・資産家達に対しても、町の住民に対しても、地方の住民に対しても、(扱いは)法に従って行っています。
 彼は半月の第十四日、第十五日、第八日に布薩をすごしています。〉

 大王よ、神々はあなたに会いたがっています。
 神々の間で、神の偉大な力をもって、楽しみなさい」

「もう結構です。友よ。この場でただちに、私をミティラーに連れ戻してください。
 そこで私はバラモン・資産家達に対しても、町の住民に対しても、地方の住民に対しても、(扱いは)法に従って行います。
 半月の第十四日、第十五日、第八日に布薩をすごしています」

そこでアーナンダよ、神々の王サッカは馭者マータリに告げた、
「さあ、君、親しいマータリよ。
 多くの純血種の(馬を)千つないだ一台の車を用意して、ニミ王をこの場でただちに、ミティラーに連れ戻してやるのだ」

「かしこまりました。御意のままに」

 そのようにアーナンダよ、馭者マータリは神々の王サッカに答えて、多くの純血種の(馬を)千つないだ一台の車を用意して、ニミ王をその場でただちに、ミティラーに連れ戻した。

 そうして、アーナンダよ、ニミ王はバラモン・資産家達に対しても、町の住民に対しても、地方の住民に対しても、(扱いは)法に従って行い、半月の第十四日、第十五日、第八日に布薩をすごした。

さて、アーナンダよ、多くの年が、多くの百年が、多くの千年が過ぎ去ったとき、ニミ王は理髪師に告げていった、
「親しい理髪師よ、私の頭に白髪が何本か生えているのをもし君が見つけたらなら、そのとき私に告げてほしい」

「かしこまりました、陛下」と、アーナンダよ、理髪師はニミ王に答えた。

 そして、アーナンダよ、多くの年が、多くの百年が、多くの千年が過ぎ去ったとき、理髪師はニミ王の頭に白髪が何本か生えているのを見つけた。

 見つけて、ニミ王にこう告げた、
「陛下に神の伝令使たしが現われました。頭に白髪が生えているのを見つけました」

「それでは、親しい理髪師よ。それらの白髪をうまく毛抜きで抜いて、私の掌の上においてくれ」

「かしこまりました、陛下」と、アーナンダよ、理髪師はニミ王に答えて、それらの白髪をうまく毛抜きで抜いて、ニミ王の掌の上においた。

すると、アーナンダよ、ニミ王は理髪師に最良の村を贈り、長子たる王子を呼び寄せて、こう告げた、
「わが息子よ、王子よ、私に神の伝令使たちが現われた。頭に白髪が生えているのが見られた。
 私は人間の享楽を楽しんだ。(今や)神々の享楽を得ようとすべきときである。

 さあ、おまえ、わが息子よ、この王位を受けよ。
 私は髪・ひげを剃り落とし、黄褐色の衣をまとって、家より出て家なき生活へと出家する。

 さあ、わが息子、王子よ、おまえも頭に白髪が生えているのを見たならならば、そのときは理髪師に最良の村を贈り、長子たる王子によく王位について教えこんでから、髪・ひげを剃り落とし、黄褐色の衣をまとって、家より出て家なき生活へと出家するがよい。

 私が定め置いた、この(家長権交代の)善い行動様式を、さらに次々に後へ続けさせよ。
(それを定め置いた)私の(子の)おまえが、最後の人になってはならぬ。

 わが息子、王子よ。もし一対の人(父子)がいて、(彼らの間で)このような善い行動様式が断絶するならば、そのうちの一人が最後の人になるであろう。

 それ故に、わが息子、王子よ、おまえに私はこう告げる。
〈私が定め置いた、この(家長権交代の)善い行動様式を、さらに次々に後へ続けさせよ。
 私の(子の)おまえが最後になってはならぬ〉」

 さて、アーナンダよ、ニミ王は理髪師に最良の村を贈り、長子たる王子によく王位について教えこんでから、まさしくマカーデーヴァ・マンゴー林において髪・ひげを剃り落とし、黄褐色の衣をまとって、家より出て家なき生活へと出家した。

 彼は一つの方角をいつくしみ(慈)をともなう心で満たして暮らした。
 そのように第二の(方角)を、そのように第三の(方角)を、そのように第四の(方角)を、(慈しみをともなう心で満たして暮らした)。
 かくして上に向っても、下に向っても、水平方向にも、一切処においても、すべて(の生類)が自己(と等しい)というありかたをもって、(有情)世界すべてを、広大なる、崇高なる、無量の、敵意(怨み)のない、害意(悪意)のない、慈しみの心で満たして暮らした。

 一つの方角をあわれみ(悲)をともなう心で満たして暮らした。
 そのように第二の方角を、そのように第三の方角を、そのように第四の方角を、あわれみをともなう心で満たして暮らした。
 かくして上に向っても、下に向っても、水平方向にも、一切処においても、すべての生類が自己と等しいというありかたをもって、有情世界すべてを広大なる、無量の、敵意(怨み)のない、害意(悪意)のない、あわれみの心で満たして暮らした。

 一つの方角を喜び(喜)をともなう心で満たして暮らした。
 そのように第二の方角を、そのように第三の方角を、そのように第四の方角を、あわれみをともなう心で満たして暮らした。
 かくして上に向っても、下に向っても、水平方向にも、一切処においても、すべての生類が自己と等しいというありかたをもって、有情世界すべてを、広大なる、無量の、敵意(怨み)のない、害意(悪意)のない、喜びの心で満たして暮らした。

 一つの方角を執らわれを捨てた平等平静(捨)をともなう心で満たして暮らした。
 そのように第二の方角を、そのように第三の方角を、そのように第四の(方角)を、(平等平静をともなう心で満たして暮らした)。
 かくして上に向っても、下に向っても、水平方向にも、一切処においても、すべての生類が自己と等しいというありかたをもって、有情世界すべてを、広大なる、無量の、敵意(怨み)のない、害意(悪意)のない、平等平静の心で満たして暮らした。

 彼らは八万四千年の間、王子として子供の遊戯に遊び戯れた。
 八万四千年の間、副王として働き、八万四千年の間、王として統治した。
 八万四千年の間、まさしくこのマカーデーヴァ・マンゴー林において家より出て家なき生活へと出家した彼らは、清らかな修行をなした。
 彼らは四つのブラフマ世界の居住の境地を修して、身体が破れた後、死後に、ブラフマ世界に赴いた」



 アーナンダよ、ニミ王にはカラーラジャナカ(鮫歯のジャナカ)という息子がいた。

 彼は家より出て家なき生活へと出家しなかった。
 彼はその(家長権交代の)善い行動様式を、断絶した。
 彼は彼らのうちで最後の者となった」

「もしかするとアーナンダよ、あなたにこのような考えが浮かぶかもしれない。
 かの時、かの(家長権交代の)善い行動様式を定め置いたマカーデーヴァ王とは、別人だったのではないか」と。
 アーナンダよ、そうではない。そのように見てはならない。
 かのときマカーデーヴァ王とは私であった。


 私はかの(家長権交代の)善い行動様式を定め置いた。
 私によりて定め置かれたかの(家長権交代の)善い行動様式を、のちの人々(世代)はさらに次々に後へ続けさせた。

 しかし、アーナンダよ、その(家長権交代の)善い行動様式は、世を厭離することへは導かず、愛欲を離れることへは導かず、消滅へは導かず、静かな安らぎへは導かず、超自然的な知へは導かず、全きさとりへは導かず、ニルヴァーナへは導かない。
 せいぜいのところ、ブラフマ世界への再生に導くだけである。


 ところがアーナンダよ、この、現在私によりて定め置かれた善い行動様式は、完全に世を厭離することに導き、愛欲を離れることに導き、消滅に導き、静かな安らぎに導き、超自然的な知に導き、全きさとりに導き、ニルヴァーナに導く。

 これが”八つの支分からなる聖道(八聖道)”である。

 それはすなわち、正しい見解、正しい思惟、正しい言葉、正しい行い、正しい生活、正しい努力、正しい念い、正しい精神統一(定)である。


 アーナンダよ、これが現在私によりて定め置かれた善い行動様式であり、完全に世を厭離することに導き、愛欲を離れることに導き、消滅に導き、静かな安らぎに導き、超自然的な知に導き、全きさとりに導き、ニルヴァーナに導く。

それゆえアーナンダよ、私はこう告げる、
「私が定め置いた、この善い行動様式を、あなた方は更に次々に後へ続けさせよ。
 私の(弟子の)あなた方が最後の人になってはならぬ」と。


 アーナンダよ、もし一対の人(師弟)がいて、(彼らの間で)このような善い行動様式が断絶するならば、そのうちの一人が最後の人になるであろう。

それ故に、アーナンダよ、私はあなたがたに告げる、

「私が定め置いた、この善い行動様式〔仏陀の教え・真理・理法〕を、あなた方は更に次々に後へ続けさせよ。
 私の(弟子の)あなた方が最後の人になってはならぬ」と。


 このように尊師は説かれた。感激したアーナンダは、尊師の説かれた言葉を喜んで受けた。

中部経典 マカーデーヴァ経